東京と神奈川を結ぶ古の冠動脈 「丸子の渡し」
「丸子の渡し」 をご存知でしょうか?
現在、東京と神奈川を隔てる多摩川下流には多くの橋がかかり、簡単に行き来することができます。しかし、橋のなかった頃は、船で人やものを対岸に渡しており、渡し場も 70 ヶ所以上存在していたそうです。
「丸子の渡し」 はその渡し場の一つ。古くは 「まりこのわたし」 とも言われ、平安時代の延喜式や鎌倉時代の 「吾妻鏡」 にも登場しています。天正 18 年 ( 1590 年) の徳川家康の江戸入府後、江戸と平塚の中原を結ぶ中原街道が整備され、江戸への玄関口として重要な役割を果たすようになりました。
昭和 10 年 ( 1935年) に丸子架橋により廃止されるまで、東京と神奈川を結ぶ冠動脈として多くの人々に利用されてきました。
「丸子の渡し祭り」 で多摩川の水面を間近で実感できる乗船体験
この 「丸子の渡し」 を再現するイベント 「丸子の渡し祭り」 は、 2014 年から実施されています。
3 回目となる今年の開催日は 10 月 30 日 (日) 。
多摩川を挟んで川崎市中原区側の丸子橋下自由広場、東京都大田区側の多摩川丸子橋緑地の二ヶ所で開催されています。
多摩川を船で渡る、丸子の渡し乗船体験を取材してきました。
この日はあいにくの曇り空でしたが、地元の方々には知られたイベントともあって 「丸子の渡し」 乗船体験に並ぶたくさんの人出が。気温も上がらず吹きっさらしの河川敷はひときわ寒く感じられましたが、お祭りスタッフによる熱いお茶がふるまわれ、一同暖を取りつつ自分の番を待ちます。
そして、ライフジャケットを装着し、いよいよ乗船です。
モーターで進む現代の 「渡し」 は、わずか 2 〜 3 分ほどで終了します。欲を言えば、かつての時代を再現するような、船頭さんの漕ぐ 「渡し」 体験もしてみたかったとも思います。歴史を探ると驚くべきことに、なんと昭和 9 年まではこのようなかたちで 「丸子の渡し」 は存在していました。およそ 50 年間に渡る架橋を願う人々の思いが実現し、さらに平成 12 年には架け替えが行われ、現在の丸子橋に至っています。
「丸子の渡し」 が現役だった時代には、人だけでなく牛や馬、人力車なども運搬がされ、川崎からは名産の梨や桃が市場へと運ばれる貴重な動線でした。しかし、度重なる増水や次第に普及する自動車という社会の変化に合わせて架橋へと移行していきました。
橋があることが当たり前の現代。かつてここに暮らした人々や産業を支えた 「丸子の渡し」 を今に伝えることは、郷土の歴史を知り、愛着を持って暮らせる意味でも意義深いことです。そして便利さを築いた多くの先人たちの苦労に、ささやかな感謝の気持ちを持つこともでき、再現イベントは貴重な体験となりました。
イベントや物販も!川崎や大田区の名産品を楽しみながら、歴史を知る機会に
「丸子の渡し祭り」 では、乗船体験だけでなく催事や出店なども楽しみの一つ。中原区側の丸子橋下自由広場では、大道芸や丸子宮元囃子保存会の皆さんによるお囃子の披露や、マリコ連による阿波踊りなどでにぎわっていました。
東京・大田区側でも 「多摩川回顧写真展」 などが催され、展示販売ブースなども賑わっていました。
川を挟んで遠くて近い、川崎・中原区と東京・大田区が連携して行っている 「丸子の渡し祭り」 。地域の歴史や自然を感じ、川を船で渡っていた古の人々に思いを馳せる体験となりました。大人から子どもへ、継いでいきたい歴史のひとコマです。
第三回 丸子の渡し祭り
日時:平成 28 年 10 月 30 日 (日) 午前 10 時~午後 3 時
場所:中原区上丸子八幡町地先 「丸子橋下自由広場」
大田区田園調布本町地先 「多摩川丸子橋緑地」
内容:丸子の渡し乗船体験 (乗り放題:中学生以上 500 円、小学生 300 円)
大道芸・凧揚げ・ものづくり体験・多摩川アユ塩焼き・多摩川シジミ汁・多摩川回顧写真展等